『ファイナルファンタジーVI』の戦闘曲「The Decisive Battle(決戦)」は、植松伸夫によるゲーム音楽の中でも特に完成度の高い名曲として知られている。ボス戦に使用されるこの楽曲は、作品全体のドラマ性と緊張感を凝縮したような構成で、プレイヤーの心理を見事に操作する。冒頭から鳴り響く緊迫したストリングスと打ち込みによるスネアリズムは、まるで運命の歯車が回り出すかのような緊張を生み出し、聴く者を一瞬で戦場へと引き込む。
中盤にかけては、シンセブラスが高らかに鳴り響き、メロディが戦いの荘厳さを象徴するように展開される。その旋律には敵への恐怖よりも、むしろ「宿命に挑む勇者たち」の意志が感じられ、ただの戦闘BGMを超えた叙事詩的な感動をもたらす。植松は限られたSFCの音源を駆使し、重厚なオーケストレーションを思わせるサウンドスケープを構築しており、特に中域の厚みとリズムの疾走感は当時のゲーム音楽の技術的水準を大きく超えている。
また、この曲は単に「盛り上げる」ための戦闘音楽ではなく、物語のテーマ──運命、葛藤、そして決意──を音楽的に体現している点が秀逸だ。プレイヤーは戦いながら、無意識のうちにこの曲のリズムと共にキャラクターたちの覚悟を感じ取る。緊迫と勇壮、悲壮と希望が交錯する「The Decisive Battle」は、植松伸夫がゲーム音楽を“物語る芸術”へと昇華させた象徴的な一曲である。