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期待

河瀬です。

 

コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除され、愛知県も学習塾等の感染リスクの少ない業種については段階的に休業要請解除となりました。

事態が完全に収束した訳ではないのですが当教室も様子を見ながらレッスンを再開する事になりました。

 

さて、音楽講師はこの度の休業中に限らず平時はレッスン以外の時間、技術向上のため練習をしている方がほとんどなのですが、私は主に勉強と研究をしております。

本日は昨年ある大学に実験レポートを提出する際に勉強研究していた事についてお話ししたいと思います。

 

人間の目に見える行動から心理を予測する分野を行動心理学というのですが、昨年はその中でも古典的な研究分野であるオペラント心理学を勉強しておりました。

とても簡単に要約すると、特定の行動と前後の物理的刺激との関係なのですが、私が実際に実験したのは、ピアノや鍵盤で遊んでいる幼児に対し、特定の鍵盤を弾いた時のみ褒めるという事をした場合、その鍵盤を弾く頻度は上がるかという基礎研究をしておりました。

結果は理論通り特定の鍵盤を弾く頻度が増えるというデータが取れました。

日常でも、特定の行動を褒められる事によってその褒められるという刺激を求めてさらに行動を増やすという事はよく見られる現象なので、そんな分かり切った事をわざわざ研究していたのかと思われるかもしれません。

オペラント心理学はこういった事を更に徹底的に細かく調べる事を目的としています。

 

ある特定の刺激により特定の行動が増えた場合、その刺激は強化子(先程の実験では褒める)というのですが、強化子の提示方法を細かく分類変化させる事により行動の増加傾向や強化子が無くなった後の行動にパターンが予測される事が分かっています。

例えば毎回の行動に対し強化子を与える事を連続強化というのですが、毎回ではなく特定回数の行動出現が条件となる固定比率(何回に一回しか強化されない)、強化子の出現が平均回数により決められている変動比率(平均して何回行動すると強化される)、強化子が与えられる条件が特定時間間隔による固定時隔(何分、何時間経つと強化される)、強化子の出現が平均で決められている変動時隔(平均して何分、何時間経つと強化される)、これらを組み合わせた複合スケジュール、さらに行動に対し即時に強化子を与える、行動に対し一定時間を空けて強化する、他にも様々な観点から膨大なバリエーションが考えられます。

ここからが日常に役立つ情報なのですが、強化子(ご褒美)が無くなった後にもその行動が最も続くパターンは時間であっても回数であってもランダム性があるスケジュールなのです。

これは、例えば固定比率の場合10回に一回(必ず10回目)の強化(ご褒美)のパターンに慣れた場合、強化子の後の9回は行動に対し強化されない(ご褒美がもらえない)といった事が感覚的に身についてしまうので、強化後の行動が増えない(休止)のですが、平均して10回に一回ご褒美がもらえる変動比率パターンの場合、1回目でもらえなかった場合より2回目の行動の方が強化子(ご褒美)への確立期待が高まり、行動は強化子が出現するまで上がります。そして強化の後も場合によっては1回目で強化される場合も有り得るため、行動が休止する事なく行動が続きやすい心理が働いていると言われています。

皆様も、日常生活においてお子様の行動を褒めるという強化子によって増やしたい場合はまずは毎回褒める、そして回数を減らす、そしてランダム性を持たせた上で回数や時間の単位を上げていく事をお勧め致します。

 

厳密なオペラント心理学は行動の前にある刺激(その行動を起こすきっかけとなる刺激)との三項随伴関係を研究するため、実際はもっと複雑であり、更に実生活上では行動に対し直接出現する強化子だけではなく、その強化子に連鎖して出現する事物が複雑に関係しているため人の会話パターンといった高度なコミュニケーションを予測する事も出来ますし、内臓の働きといった意識の及ばない領域までコントロール出来るという実験報告もあり、広範で奥が深い領域であり、科学性の高さから限定された場面の単純な行動に対しては高い効果が期待されるため、教育場面でも即効性を持った手段と考えられます。

僕も実際場面で有効である予測が立ち且つ反作用が少ない場合は積極的に取り入れております。

 

しかし一方でオペラント心理学の実験は生後の経験や個体の条件を統一するため、ハトやマウスといった動物によって基礎実験を行うため、人間はそんなに単純ではなく、強化を予測する事も強化によって行動が誘引されるほど単純ではないという意見もあるのですが、人間の実生活でも、ある領域においてはかなり単純なスケジュールによって実際に大成功を収めております 。

パチンコ、スロットなどのギャンブルはその典型的な一例であると言われています。

「もうちょっとやっていたら必ず当たるはず」という期待。

必ず来るような蓋然的なものへは期待というより予定であり、ランダムであるからこそ人の期待は膨らむという事でしょうか。

 

緊急事態宣言中にパチンコ屋さんに並ぶたくさんの方々を見て、パチンコ屋さんは愛されているなと、ふと羨ましくも思いました。